うすずみの家
古希を控えた施主が1人で暮らすための改装依頼。
既存建物は築40年を超える木造の平屋で、以前は裏千家のお茶教室兼、先生の住居として使われていました。耐震や断熱、漏水など多くの問題を抱えていた為、建て替えも視野に入れて検討しましたが、大切に使われてきた美しい茶室からこの場所の力を感じました。建てられた時代柄、大量生産を前提に設計された間取りや建材を丁寧に解体し、組み替えて行くことでこの家に関わった人々の思いをまた次の世代に繋げていけるのではないかと考えました。
改修にあたり、建物北側の茶室と水屋はできる限り残して建物南側の住居部分に手を入れています。居間の物置になっていた広縁は屋外化し、既存の妻庇とあわせて深い軒下空間を作っています。素材については昔からその地域にある商圏の内で調達できるものを優先して選ぶようにしました。そういった素材を使い、その家が使われていくことで地域の記憶を残していくことができると考えています。
また、意図したわけではありませんが「灰」という素材を多く検討しました。火山灰、松煙、石灰など時を経て燃え尽きたあとの淡い色合いに美しさを感じます。この家に髪を銀灰色にした施主が入り、息子たちから贈られた薄墨桜を植樹して「うすずみの家」が完成しました。
残した茶室には門下生たちが再び集い、月1回のお茶会がささやかに行われています。